|
『羽根むしられて』 著・ウディ・アレン
|
|
笑いの天才の努力の結晶。
笑いを追求した本の究極の到達点。 |
|
「あふれんばかりの才能を持った人間があらゆる手練手管を尽くして人を笑わせようと努力した本」
それがウディ・アレンの短編集、「これでおあいこ」「羽根むしられて」「ぼくの副作用」である。 そのウディ・アレンの短編集の中でも最も趣向が凝らされ、最も密度が高く、そしてなによりも笑える短編集がこの「羽根むしられて」だ。 客との知的会話を商売とするコールガール組織を探偵カイザー・ルーポウィッツが追うハードボイルドパロディー『コールガール組織を追え』天才詩人ショーン・オーションの難解な詩に克明かつ噴飯な注釈をつけた『アイルランドの天才詩人』、椅子にかけておいた下着が、夜中の三時に、ローラースケートをはいたドイツ皇帝に見えてしまったりする驚愕の爆笑内省日記『ぼくの日記帳』、目がさめたら、ブリークネス・ステークスで馬と競争してしまうような不思議な現象を扱った『心霊現象を探る』 読んだことのある方にならわかるだろうが、正に珠玉の名にふさわしい短編ばかりだ。 ウディ・アレンの短編作品の最大の特徴は、その密度の高さだ。 『もし印象派画家が歯科医なら』…この短編は、かのゴッホが歯科医だったら…その情景を弟テオとの往復書簡という切り口で描いた作品でその着想だけで面白いのだが、そのディティールがさらに凄い。ゴッホが歯科に悩み、他の歯科医との交流に悩み恋に悩む様が克明に描かれている。 とにかくウディは満足するということを知らない。笑える着想一つでも徹底的にディティールを付加し、これでもかこれでもかこれでもかと笑わせようとする。とにかく手数が多い。その技の種類も様々であらゆる笑いの手法が尽くされている。その膨大さは目も眩むほどだ。 日本だったら、一個の平凡な着想を短編あわよくば長編にまで引き伸ばして、それだけで、ユーモア作家などとのさばっていられるのだろうが、それほど気楽なお国柄ではないのだろう。 そして、ウディ・アレンのもう一つの特徴は、その「センスの良さ」だろう。作家を誉めるのに「センスが良い」だけで済ませてしまうとは何事だと怒られそうな感じだが、とにかく、ウディのセンスは卓越してるのだ。 どこが面白いのか?と言われても説明しようがないが、確かにとても面白い。ウディの作品はそんな不可説な面白さがある。「笑いってそんなもんじゃないの?」と言う冷静な意見もあるだろうが、まぁとにかくそんな感じだ。 『羽根むしられて』の中で私が最も好きな『幻獣図鑑』から少しだけ引用させていただこう。
面白くて笑ってしまうのだけれど、どこが面白いと言われると困ってしまう。とにかく、この面白さがわかる方は大型書店をめぐるなり、古本屋を巡るなりして手に入れていただきたい。色々探し回るだけの価値はある本だ。 特に「嘘を書こう」と思っている向きには必携必読の本と言えるだろう。我々が嘘として知っている笑いの基本形は全てここにある。ただし、あまりにも様々な手法が既に尽くされている現場を見てやる気を失ってしまう可能性があるため、その点に関しては注意が必要かもしれない。 |
|
書籍データ |