「姉がこんなになったのは、私のせいなんです・・・」
パロマは弱弱しい声で語り始めた。
自分が不治の病に冒されていること。キャロルがあらゆる病を治す醤油の噂を聞きつけ、 キッチョーアン・アメリカに入社したこと。キャロルはその天性の才能により、キッチョーアン・アメリカでも特別な地位を築きあげていたと言う。
「ある日、姉が傷だらけで家に帰って来ました。小さなビンを見せて、これで私の病気も治る…と…姉はそのビンをオールゼロと呼んでいました」
「オールゼロ…!」
カオリはかつて聞いたその菌の名前に驚く。
オールゼロ…それは、かつてキッチョーアンアメリカに存在したと言う万能の醤油菌。カオリ達は既に死に絶えてしまったと聞かされていたが…パロマの話によるとキャロルはそのオールゼロを使うことのできる数少ない醤油士で、オールゼロからコピー醤油を作り出すことに成功したのだという。
そして、オールゼロによる醤油が治癒効果をもつことを知ったキャロルは研究所に残るわずかなオールゼロを全て持ち出した…
オールゼロによって作り出された治癒醤油によって、パロマの症状は改善した。だが、快癒にまでは至らなかったという。
「オールゼロって治癒の醤油にもなるの?」
「なるだろう。オールゼロによって宇宙醤油も作れると聞く…宇宙醤油効果が医療に応用可能であることは想像に難くない」
カオリの疑問に二段仕込み仮面が応える。
「でも、オールゼロはほんのわずかでした。もっと量があれば、私の病も完治する…そう考えた姉はさらなるオールゼロを手に入れるため、醤油の聖地に行くと言い出しました。」
「なるほど…それが彼女が聖地を目指した理由か…」
「姉は、まずチュキカマタにいた醤油の鍵の守護者から鍵を奪い、あちこちの街で麻薬性のある醤油を売りさばき、そのお金でこの鉱山に醤油プラントを建設しました。そしてコピー醤油を使い、全ての醤油の鍵をこの地に集めるとつもりだったようです…」
「あんなインチキ技があればそれもできるよねー。ま、私にはかなわなかったけど」
ギリギリで勝ったカオリが強がって言う。
「そうですね…でも、コピーも万能ではないんですよ。カオリさん。制約があるんです」
パロマはかすかな微笑を浮かべてカオリに答える。
「制約?」
カオリが驚いた声を上げる。
「一つはコピーする醤油に触れること。もう一つはオリジナル醤油の使い手の近くにいること…その2つを守らないとコピー醤油は使えないのです」
「そうか!ここにいる醤油士たちは…!」
二段仕込み仮面は驚いてベッドを見渡す。そう、ここに横たわっている醤油士は全てキャロルにその技を奪われたものたち。そして彼らはキャロルが自在にコピー醤油の力を発揮すべく囚われていたのだった。奪った技を自由に使えるキャロルにとっての無敵の空間。それがこの醤油要塞パロマなのだった。
「姉は、チュキカマタに鍵があるという情報をわざと流し、この坑道につぎつぎと醤油士を誘い込み、力をつけていきました。そして囚われる人たちもどんどん増え…私は、こんな、こんなつらい思いをしてまで元気にならなくてもよかった…この人たちにも…姉にもつらい思いをさせてしまった…」
そういうとパロマは一筋の涙を流した。
パロマは自らの病が悲劇を生み出したという罪の意識から、囚われた醤油士たちの介抱に当たっていたのだと言う。
「なるほど…彼女が警察署ですぐにカオリを倒さなかったのはそういうわけか…」
二段仕込み仮面はひとりごちた。
「なんで?」
「キャロルはできるだけカオリの醤油をコピーしておきたかったのさ。自分に有利なこの醤油要塞で、カオリの醤油をコピーし尽くす。で、鍵を奪って、カオリをここに幽閉するつもりだったんだろう。」
「うへぇぇえ」
さしものカオリもキャロルの企みにゾッとした。
「これを姉さんに」
パロマは小さな醤油ビンを取り出した。
「残っていた治癒の醤油です。これで姉さんの傷を癒します」
サムヤムがキャロルを担ぐ。パロマが寝かされたキャロルの口に醤油を注ぐ。
「パロミータ…」
キャロルは目覚め、弱々しくうめく。
「姉さん。もうこんなことはやめましょう。このままでは新たな悲しみの醤油を生み出すだけ。
昔の…優しかった姉さんに戻って」
「…」
キャロルはとまどいながらパロマを見ている。
「もう、私は良いんです。私の命がつきてもそれは運命。私は姉さんと安らかに暮らせればそれが幸せ…」
確かにパロマは今までも止めてきた、だがこうしてキャロルの戦いの場にいてまで止めることはなかった。キャロルは迷う。
カオリ達3人はキャロルを説得するパロマをじっと見ている。
「それに姉さんでなくても、ほら、この人達ならきっと醤油の聖地にもたどり着けるわ」
「もちろんっ。私なら鍵集めも醤油の聖地も軽い軽い。オールゼロなんていくらでも持ってきてあげるって」
話をあわせて安請け合いするカオリ。
カオリの能天気なまでの気楽さにキャロルの表情がふっと和らいだ。
「ああ、そうだね。アンタならいけそうだ」
笑みを浮かべるとキャロルは醤油鍵をカオリの足下に放った。乾いた金属音が鳴り響く。
「私はどうかしてたかもしれない。鍵は渡すよ。だから、パロマのために…」
「任せといてよ」
言うが早いか、カオリは鍵を拾い上げる。
「カオリさん。姉さんの分もお願いします。」
パロマがちょこんと頭を下げる。
「だーいじょうぶ。ねぇ。サムヤム、二段仕込みさん?」
「おう!まかせておきなって!」
サムヤムも話をあわせる。だが、何故か二段仕込み仮面の姿はなく、二段仕込み仮面が立っていた場所に醤油桶があるだけだった。
「あれ?二段仕込み仮面は?」カオリがたずねる
「へ?さっきまでここにいたのにな?」
「ん〜。ま。いいか。で、キャロルさん次の醤油の鍵のありかは知ってるの??」
「イギリス…第六の鍵は醤油円卓の騎士達が守護している」
「円卓の騎士?」
「やばい連中の集まりだって聞いている。気をつけるんだね。」
「わかった。パロマちゃんのためにもがんばるよ。じゃ!またね!」
晴れやかな笑顔を浮かべてカオリはきびすを返し、部屋を出て行こうとする。
「カオリ!」
部屋を出て行こうとするカオリにキャロルは呼びかける
「忠告だ!デヴィッドに気をつけな!デヴィッド=キッチョーアン…アイツは危険だ!」
「デヴィッドが?どうして?」
「…いずれわかる。醤油に…飲まれるなよ」
こうしてカオリは第5の鍵を手に入れ、チュキカマタ鉱山を後にした。
------------
サンディアゴ空港のロビーでデヴィッドはキッチョーアンアメリカ本社に電話連絡を入れていた
「…そうだ…あの炎…真なる緋醤油の片鱗と見て間違いないだろう。そして次は聖杯…計画は順調だ…」
そこに、遠くからカオリとサムヤムがかけてくる。
その姿を見ると、電話を切り、デヴィッドは笑みを浮かべて二人を出迎えた。
「二人とも無事だったかい?」
「うん、ほら第5の鍵も手に入れたよ。キャロルさんって人が持っていた」
「ほう」
「いろんな醤油を使う人ですごく強かったんだよ〜」
「へぇ、それは私も見てみたかったな」
「…それとキャロルさんが…」
カオリの頭にキャロルの忠告がよぎる。
「なんだ?」
「…ううん、なんでもない。」
カオリは忠告を振り払うように、頭を振った。
「それより、次の鍵はイギリスだって。とっとと行きましょう」
「イギリスかい?了解。いつでも出発OKだ」
「じゃ、出発〜っ!」
カオリの元気いい声がロビーに響く。しかし、その声には一抹の不安の色が漂っていた。
デヴィッドの野望とは一体…!?