アルタ前でカンタータ「栄えよ,力強い国土」がクライマックスを迎えると同時に飛行船から黒い雨が降り注いだ。醤油の雨だ。
その雨は徐々に勢いを増し、遂に滝のようになった。駅上空にホバリングしていた米軍機も醤油の雨に打たれ墜落してしまう。
これほどの醤油があの飛行船の中におさめられたとはとうてい思えない。だが、現実に新宿駅は轟音と共に醤油にまみれていった。
「私の…私の新宿駅が…!」
藤沢駅長は恐怖と怒りの入り交じった奇妙な表情を浮かべていた。
その醤油は駅構内に染み入り、覆い尽くす。そしてついには、ポポフのいる地下街まで伝わってきた。足下に伝う醤油を舐めてみるポポフ
「これは…この醤油はキッチョーアン!」
ポポフが気づいたその瞬間、地上にたまった醤油が防火シャッターを破り一気に地下に流れ込む!醤油の奔流に飲まれるポポフ。数瞬の間に地下街サブナードは醤油で満たされる。
「おのれーっ。キッチョーアン!」その絶叫は醤油の濁流にかき消された。
飛行船機内。舵を取るのはやはりデヴィッド・キッチョーアンであった。
「醤油の中に埋もれてはさしもの亜音速醤油も役に立つまい。なんにせよ、ポポフ。きみはやりすぎた。」
デヴィッドは珍しく感情的になっていた。プラントを壊されたのをかなり根に持っているようだった。
「ガロア、見事な演奏だった。礼を言う。引き上げてくれ。後は鍵の回収を待つだけだ。」
アルタ前でオーケストラの指揮をとっていた男こそ醤油トライデント演出部門統括ジョージ・ガロアであった。偉大なる十月社会主義革命30周年のためのカンタータ。それは祖国のかつての栄光を夢見たポポフへの鎮魂歌だったのだ。
ガロアは無表情に醤油にまみれた新宿駅を見つめていた。
「過去を求める者は…滅び行く…」
新宿駅を醤油で埋め尽くし、ポポフを退けたキッチョーアン。
だが、鍵の所在は?カオリの生死は?